創造するメディア

この秋に「これからのメディアをつくる編集デザイン」という本が、フィルムアート社から出版されました。

「ひとりよがりにならないために。すべてのメディアユーザーへ捧げる表現の武器」という、少し過激な帯文を見ると、端からこれは専門書なのかな?という印象を持ってしまいますが(実際に専門書なのですが)、一度読み始めると、意外なほど取っつきやすく、新しいコミュニケーションのあり方のヒントを見つけワクワクして来ました。

表現アートセラピー画像2それは以前とても興味深く読んだ『ダイアローグ』という本を読んだ時の感触に似ていたのです。※『ダイアローグ』デビット・ボーム著・英治出版
メディアについて書かれた本と、対話について書かれた本に共通するエッセンスがあったことは、新鮮な驚きでした。

もう一つ私にとってとても収穫だったのは、ファシリテーションの在り方について学べたことでした。メディアはある意味、ワークショップのようです。そこで構成され展開するプログラムは、情報を編集デザインする行程にも似て、参加者はメディアを体験する読者や視聴者に例えられます。そして、プログラムを提供するファシリテーターには、編集のダイナミズムを理解し、利用する能力が問われるのです。

コラボレーション(協働)+異質な物をつなぐ(編集)+価値のデザイン(フィロデザイン)

巻頭に紹介されるこれらのキーワードをよむだけで、この本に確かな軸があるのを感じさせられます。このモジュールを手がかりにメディアを創り上げるアイデアは、ワークを創造するヒントになりそうです。

表現アートセラピー画像5縁あって装丁や本文のイラストレーションを担当させていただいたばかりでなく、編集デザインにおける色彩心理についての小論を寄稿する機会をいただいたこともあり本書を手にすることができました。
もしかするとそんな機会がなかったら出会えなかった本かもしれません。
その昔、デザイン畑でウロウロしながら得たメディアデザインや編集に関する知識の賞味期限も過ぎ、勘も働かなくなっていましたから…。

タイトルにあるように、この本はメディアデザインを学ぶ人や、編集に関わるすべての人にむけて作られた文字通り啓蒙書のような存在です。
あらためて「メディアとは何か?」という問いにぶつかります。
その問いを紐解いて行くと、実に身近な存在でありながら、言葉で一括りにされたとたんによそよそしく感じられるのは、メディアそのものが、意味づけの難しい概念として位置づけられるようになって来たからなのかもしれません。現代に生きる私達は、(あるときはライフラインに匹敵するほど)新聞・テレビ・雑誌やインターネット等の、実に多彩なメディアに、依存してしまっているのではないでしょうか?

表現アートセラピー画像3重力が宇宙をまとめる糊だとしたら、メディアと編集デザインは、その宇宙と重力のように切っても切れない関係にあります。
その世界はまた刻々と変化していく中、私たちの社会も変容していこうとしています。メディアが私達を創るのか、私達がメディアを創るのか、だんだん解らなくなって来ました。

単にメディア研究や情報デザインを学ぶための専門書として読むと、もったいない。身近な話題やケーススタディなど、メディアについて親しみを持てたり意外な発見もあり、良い意味で期待を裏切ってくれるのです。

読後、一番印象に残ったのは、レアな感触でした。
メディアのそして編集の現場の最前線から生中継されるような飾らない言葉は、専門性をもたない私にも響いてきます。

表現アートセラピー画像1情報も、メディアも有機体のごとく、あっという間に変化してしまいます。そんな対象について書かれる本は、どこまでもレア(生もの)である必要があるはず。

こうして考えてみると、メディアとは人と人との相互的コミュニケーション(対話)が行き来する巨大な空間のようにも思えます。対話の場では言葉が大きな要となります。
ある時それは、ツールであり武器として使われます。しかし、対話における言葉という武器は相手を壊すためにあるのではなく、あくまでも古い自分の在り方や、固まった観念を打ち破るものだったりするのです。

本書は、そんな武器の賢い使い方を教えてくれる貴重な一冊です。
現代の情報化社会を生きるための、指南書まはたツール(道具)として広く読まれてほしい本です。