援助について

過日、朝日新聞の紙面で、被災地での心のケアの一環として行われていたアートセラピーの問題点が、とりあげられていました。記事によると、<被災地の子供のケアとして、心の不安を絵で表現することは、必ずしも心的外傷後ストレス障害(PTSD)の予防にはつながらず、かえって傷を深くする場合もある>という内容でした。

その記事だけでは、詳しい内容やいきさつは不明ですが、実際に現地にボランティアで行った経験のある人や、現地で関わっている人からの情報によると、いろいろな問題点があることは事実のようです。テレビの映像で目にする被災地の状況は、やはり現地で過ごしてみなければ計り知れないものです。未だ、混乱が続く現地で、本当に何が役立つのか、助けになるのか詳しい情報を手に入れることもままならない状況がつづいています。

表現アートセラピー画像2そんな中、こんな記事がとりあげられてしまうと、まるでアートセラピー全体に問題があるような印象が強まってしまうようで、残念な気持になりました。

実際に、わずか数日だけのテンポラリーのボランティアで現地をあとにする団体もいれば、毎週のように熱心に通い続ける人達もいるそうです。心のケアは、やはり継続することが大切です。そして、それなりに心のケア関する熟練したキャリアも必要でしょう。

心ある方達は、それなりの準備を整え、現地に赴かれているのだと思います。
しかし、記事を読むと、誰を信じたらいいか、皆戸惑うのでは?という印象がありました。
それは、暗に援助を提供する人達の経験がまちまちということもありますが、一番問題だと感じるのは、援助するタイミングと短期的なアプローチの限界について、提供者もケアを受ける側も理解していないという点です。

表現アートセラピー画像4たとえば、経験豊富な精神科の臨床医や、心理士の人であっても、たった一回の関わりで、被災者のケアが出来るとは思えません。
とくに、今の時期は、被災後わずか3ヶ月しか経っておらず、場所によっては、日常生活から切り離された状況に慣れることが精一杯の状態にある人達も少なくないでしょう。被災の経験を受け入れるための時間がどれくらい必要なのか、個人差も含めると計り知れません。

私自身、中学時代に父親を飛行機事故で亡くした経験があるのですが、その時の自分を振り返ると、経験を実感できず、長い間泣くことも出来なかったことを思い出します。本当に父親を亡くした喪失感を感じて、寂しさや悲しさを実感したのは、それから何年もして成人した後のことでした。実際に体験をした直後、半年ぐらいは感情が無くなったような感覚が続くのです。
そんなとき、人に心配され言葉をかけられると、かえって心苦しく思ったものです。たぶん、傷みを癒す時間をかせぐために閉じた心のドアは、自分が納得しないまま開けることはあまり有効でないと、無意識に感じていたのかもしれません。あらためて感じるのは、大きな心的ストレスを乗り越えるためには、時間が必要だという点です。そして現状で、どのような援助が有効なのかを考えつづけています。

表現アートセラピー画像5思うのは、3月11日を経て、心に刺さったままの棘が抜ける日は遠く、果てることない課題を抱えたまま居るような気持があります。
自分に何ができるのだろうか…? そう感じながら、踏み出す方向を探しています。

新聞各社の記事によると、一様に被災地での子供の心のケアの急務を告げていますが、これも何か矛盾を感じます。
このような情報が伝わるからこそ、準備の整わない団体がフライングをしてしまうのかもしれないし、大切なケアをボランティアに頼るというのも限界があるのかもしれません。
もしも、子供達のケアに関わるチャンスがあるとしたら、定期的そして長期的なアプローチが望まれます。大きな指針を失った人々にとって、変わらぬ支援は希望となります。
今後の課題としては、継続かつ安定した支援を送るためのシステム作りが望まれるでしょう。そして、復興という意味では、現地で被災している人々はもちろんのこと、私たち自身も日本の復興にむけ、踏み出す決心をする時なのだと思います。

最後に、アートセラピーのアプローチについて。
絵を描く事、それがすなわち<心の窓を開く>とは限らないのですが、関わりかたによっては、深い意識や感情に触れることがあることは確かです。

しかし、そんな場合は、丁寧なサポートにより、深めた傷を経験として活かせるチャンスとして変化させることが可能になります。サポートする側は、体験者を在りのまま受け入れ、どのような反応も安心して受け取れる手助けをすることが大切です。子供に限らず、アートの中に表現された物はすべてメッセージです。それが、何を意味しているか?は、本人の無意識だけが知っているのかもしれません。答えは明確でないとしても、現れた表現の中に答えを見つけ、それを解決するきっかけにしていけたら、確実に先進していきます。

表現アートセラピー画像7「なぜ?」という問いに行き詰まっている人に対し、「どのようにしたら?」という方向にベクトルを向ける手伝いをしていくことが有効な援助となります。
大切なのは、タイミングと継続。

援助する立場としては、それを見極めることに努めていきたいと感じています。
復興には、数年いいえ、それ以上かかるという見方もあります。
アートは、それそのものが持つ創造エネルギーが、経験する人々に力を思い出させてくれるものです。

これからの復興の道のりは、それそのものが創造のプロセスとなるでしょう。
人々が一日も早く、自分自身を取り戻し、そのプロセスを信頼して生きられる時が来ることを願うばかりです。
私達は援助者として、今後どのように関わったら良いかを見据えながら、自分と社会との繋がりを見つけて行きたいと思っています。