「自分をもてなす」サンデールームイベントにて

誰もが気持ちよい空間に居ることを好むと思います。
しかし、その気持ち良い空間とは、どんな空間でしょうか?ただ、掃除が行き届いていればいいのでしょうか?
近年の断捨離ブームも手伝って、物を捨ててスッキリ暮らすというスタイルが流行しているようです。私もデトックス好きなので、物を整理したり、捨てることの大切さを感じていますが、どうもこの断捨離インテリアだけは興味をそそられないのです。何もない部屋というのは、かえって落ち着かない。それは、殺風景に見えてしまうからなのかもしれません。
私は、元来モノ好きなので、いろんな物との共生する空間を好みます。モノが活きる空間づくりは、やがて暮らしをしつらえるという楽しみへと変わって行きました。
今では、ワークショップを行うアトリエに訪れる人達が、インテリアを楽しみ、くつろいでくれることは、私の大きな喜びとなっています。

「住まい」には、並々ならないこだわりを持つ私ですが、あくまでも趣味の域を超えることはありません。

かつて空間やテーブルウエアをデザインしていた頃、時代はバブルの絶世期を迎えていました。マンションブームに伴うインテリア・コーディネーターの需要が高まり、仕事は溢れるほどありましたが、誰もが好む部屋づくり(顔の見えない顧客に対してデザイン)に魅力を感じられず、いつしか現場から離れてしまいました。
その後も家やワークショップスペースを居心地良く整えたくなる衝動は無くなりませんでしたが、自分のためのデザインやコーディネートを楽しむ程度に留めていました。それでも、昔取った杵柄というのでしょうか、いろんな場面で空間デザインのアドバイスを求められたり、助っ人にかり出されたりしています。

空間デザインやディスプレイには、それなりの基本やスキルが必要ですが、一番大切なのは、知識でもなければ、経験でもなく、「居心地を追求する心」だと思うのです。その心があれば、必然と物やアイデアが集まって来ます。
今回の講座では、その心を体験してもらうことをテーマにしてみたいと思いました。

『暮らしの美学』 理想の住空間の作り方を学ぼう~というテーマが決まると、限られた時間の中で、何が出来るのかを考え始めました。「インテリアのノウハウや、スキルについて伝えたとしても、皆それを家で実践するだろうか?」スキル(方法)は忘れても、この言葉だけは持って帰ってくれたら…。

自分の居心地のいい色はどの色?それが、今回のコンセプトとなった「自分をもてなす」というキーワードでした。
見ず知らずのお客様をもてなすためには、あらゆるニーズに応えなくてはなりませんが、自分という顧客は独りだけ。その大切な人を相手に、心を配り、ニーズを満たす。「それなら出来そう。」キーワードを聴いた人達は、口々にうなずいて言いました。

「もてなし」の極意については、芸術家で在りながらも美食家として名を馳せた北大路魯山人に学びました。
意外だったのは、彼が高級料亭の料理よりも、家庭料理に真髄を見いだしていたことです。常日頃から、「美味しい料理を食べさせる店など滅多に無い」と、豪語していた彼は、自ら包丁を持ち、お抱えの料理人にその極意を伝えたそうです。その極意とは、「もてなしの心」でした。料理の味は去ることながら、それを食べる人の好みや体調まで調べあげて、最高のパフォーマンスを行うことに喜びを感じていたのです。
彼のスタイルがすべてだとは思いませんが、私にとっては、何か腑に落ちるものがありました。

「もてなし」とは、別の名を借りれば、それは「心配り」とも言えますし、「愛」だと呼べるものかもしれません。よく「自分を愛する」ことが大切だと云われますが、なかなかどうしてこれが難しい…。
自己価値観の低い人、どうやったら自分を好きになれるのか解らずに悩む人は数え切れないでしょう。

まず、愛するという事が解らない人が多いのです。しかし面白いもので、「もてなす」ことはイメージしやすいようです。そこで「自分をもてなす」ために、空間を演出することを提案してみました。

実際に、自分を取り巻く空間を、心地良く整える(又は、飾る、しつらえる)ことは、自分に対する最高のもてなしです。
誰もが美しく整ったホテルの部屋でくつろぎたいと思うでしょう。まちがっても、埃だらけの散らかった部屋に泊まりたいと思う人は居ないはず。

それなのに、多くの人が面倒だという理由のもと、乱雑な空間の中で甘んじているのです。それは、面倒だという理由よりも、自己価値に起因するものが大きいのです。自分に、乱雑で好ましくない空間に四六時中、何年もの間身を置くことを強制しているのです。「どうやったら、素敵な部屋に住めるか?」と問うならば、そのノウハウを学ぶ前に、自分に価値を見いだし、大切に扱う決心をすることが先決です。

魯山人の「もてなし」に対するこだわりは、茶の湯の世界にルーツがあります。茶道の茶聖と謳われた千利休は、「一服のお茶のために亭主は様々な趣向、工夫を凝らして茶室をしつらえ、道具を組み合わせ心を尽くした点前(てまえ)でもてなす」ことをその真髄としています。茶の湯の世界には、魯山人の求める美学のすべてが集約されているのでしょう。「もてなし」とは心の美学だと言えるのかもしれません。もっとやさしく云えば、それは「心づくし」のこと。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA心を尽くすということは、特別な才能が無くてもできることですが、シンプルでいて、なかなかむずかしい。
心を尽くす対象もさまざま。
もてなす相手(客)に対する心づかいも去ることながら、料理の盛りつけの器から、空間のしつらえや、料理の素材に対する配慮も欠かせません。魯山人は、このどれにも細心の心を配り、料理を知り尽くしました。彼は、常に素材と対話しながら料理を考えたと云います。こうやって、考えてみると、自分をもてなす(愛する)ための方法は奥が深そうです。

今回の講座の終わりには、サンデールーム主催のディナーが振る舞われました。料理を担当してくれた星野充子さんは、いつも旬の野菜を中心に、本当に美味しい創作料理を提供してくれる人です。
彼女の料理の特色は、素材の魅力を最大限に引き出すこと。「もてなす」という意味では、素材をもてなす流儀を知っている人なのだと思います。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAサンデールームでのワークショップは2年ぶりでした。
参加してくださった皆さんは、「自分をもてなす」ための、理想のスペースデザインに挑戦しました。はじめてコラージュワークをする人や、絵を描く事など久しぶりの人。皆、和気あいあい、クリエイティブな時間と、美味しい料理。貴重な一期一会の出会いを楽しんでいました。
「もてなし」は、自分も他者も同時に幸せにしてくれます。それは、特別なしつらえも才能もいりません。

在るがまま、真心をつくし、出会いを楽しむことなのです。
その心を育てることが、やがては自分を愛し、人を愛することに繋がるのではないでしょうか?
むずかしいけれどシンプルなその方法、取り組んでみる価値はありそうです。


ワークショップデータ

講座 【表現アートスペシャル企画 in サンデールーム】
 『暮らしの美学』
  理想の住空間の作り方を学ぼう
日程 2016年10月15日(土)
場所 サンデールーム
募集要項  http://www.atelier-ys.jp/wordpress/ws/sundayroom-ws/sunday2016/